ホルムズ海峡封鎖が原油タンカーに与える影響


本稿は『日本向け原油タンカー運航隻数が大幅増、国内需要の3分の1相当に(西 勇太郎)【楽天証券 トウシル】』(https://youtu.be/OA3yyK6Nq54の内容と各種補足報告から再構成した資料です。


はじめに

西(楽天証券経済研究所):今回は、ホルムズ海峡の封鎖が原油タンカーにどのような状況をもたらしているかについてお話しします。約1か月ほど前に、日本と韓国のタンカー状況も含めて一度ご報告しましたが、今回は日本のタンカーに焦点を当て、現在どうなっているのかを整理します。具体的には、①ペルシャ湾内に取り残された原油タンカー、②ペルシャ湾の外で積み込み中のタンカー、③アメリカから来ているタンカー、④その他の地域からのタンカーの4点です。

📌 補足:ホルムズ海峡封鎖の背景と世界市場への影響

ホルムズ海峡は、2024年時点で日量約2,000万バレルの原油が通過し、世界の石油消費量の約20%を担う重要チョークポイントです。2026年2月28日の米国・イスラエルによるイランへの武力行使以降、イランが海峡の通航を事実上遮断し、船舶への断続的な攻撃が続いています。世界的なエネルギー商社ヴィトール・グループは「世界の原油市場から約10億バレル(世界の10日分の供給量に相当)の原油供給が失われた」との見方を示し、米シティグループは「紛争が早期に終結しても、世界の原油・石油製品在庫は6月末までに8年ぶりの低水準に達する」と予測しています。国際海事機関(IMO)事務局長は「ホルムズ海峡がすぐに開放されても正常化には数か月かかる」と述べ、米国防総省は「機雷除去に約半年を要する」と評価しています。また、戦争危険保険料の大幅上昇も船社の通航判断を慎重にさせています。

1.ペルシャ湾内に取り残されたタンカー

まず一点目です。ペルシャ湾内に取り残された原油タンカーですが、これは確認できたベースで、状況に変化はなく、1か月前と変わっていません。つまり、引き続きペルシャ湾内に留まっている状況です。

📌 補足:ペルシャ湾内のタンカー滞留規模と日本関係船

ロイター通信の報道(2026年3月1日)によると、ホルムズ海峡より内側のペルシャ湾で少なくとも150隻のタンカーが錨を下ろして停泊しており、主要産油国(イラク、サウジアラビア、カタール、クウェート、UAE)の沿岸沖に集中しています。海峡の外側でもUAEおよびオマーンの沿岸沖に少なくとも100隻のタンカーと数十隻の貨物船が停泊しています。日本関係船については、ペルシャ湾内に44隻が滞留し、うち原油タンカーは12隻と報じられています。また、湾内に取り残された船舶から日本人乗組員4名が下船したことも明らかになっています。海峡の通航隻数は、開戦前の1日平均約140隻から直近ではわずか5隻程度に激減しています。

2.ペルシャ湾外で積み込んでいるタンカー

二つ目は、ペルシャ湾の外で積み込みを行っているタンカーです。こちらは現在確認できただけで4隻になります。1か月前は2隻で、サウジアラビアのヤンブーという港で2隻が積み込み、日本に向かっている状況でした。それと比べると、今回はアラブ首長国連邦のフジャイラ(ペルシャ湾に入る手前の港)や、オマーンのミナ・アル・ファハル(ここもペルシャ湾に入る手前の港)で積み込まれたものが名古屋に向かっているといった状況があり、4隻に増えています。

📌 補足:フジャイラ港の戦略的重要性とリスク

フジャイラ港はホルムズ海峡の外側に位置するUAEの主要な石油積出港であり、海峡を通過せずに原油を輸出できる代替ルートとして開戦後注目を集めています。同港へは、ハブシャン-フジャイラ原油パイプライン(輸送能力約180万バレル/日)を通じて原油が供給されており、UAEはこのパイプラインを活用して原油輸出を継続しています。しかし、フジャイラ港も安全とは言い切れず、2026年3月にはドローン攻撃を受け積み込みが一時停止する事案も発生しています。サウジアラビアのヤンブー港も紅海に面した代替積出港として機能していますが、紅海ではフーシ派がイラン支持を表明し船舶攻撃を示唆しているため、リスクは完全には解消されていません。

3.アメリカからの原油タンカー

アメリカからの原油タンカーは、大きく増えています。これは、中東からの調達がほぼ止まっている中で、量をたくさん確保できる先がやはりアメリカだということで、メキシコ湾積みのものでこれまで以上の隻数が日本に向かっている状況です。特筆すべきは、通常は喜望峰回りの航路が多いところ、パナマ運河経由のタンカーもいくつか見られる点です。これは、喜望峰回りだと40数日もかかるところを、パナマ運河を通すことでより早く日本に到着できることを考慮したものと考えられます。ただし、パナマ運河の通行料が追加コストになるのに加え、VLCCのような大型船はパナマ運河を通れないため、どちらかと言えば小型のタンカーで運んでくることになり、運賃が割高になるというデメリットもあります。

📌 補足:米国産原油の調達増加とタンカー動向

ホルムズ海峡封鎖を受け、日本を含むアジア諸国は米国産原油の調達を急速に拡大しています。ロイター通信は「アジアの製油所がパナマ運河経由で中型タンカーを利用したアジア向け米国産原油輸送を増やしている」と報じています。航海日数は、喜望峰回り(VLCC)で約45~60日、パナマ運河経由(パナマックス級・アフラマックス級)で約25~30日とされます。在米の日系石油関連企業関係者は「VLCCはパナマ運河を通れず、喜望峰まわりとなり片道で60日間かかる」と指摘しています。パナマ運河経由は航海日数を大幅に短縮できる一方、通行料(パナマ運河では近年、優先通航枠がオークションで高騰)や小型船ゆえの運賃割高というデメリットがあります。また、国際タンカー運賃指標(バルチック海運取引所のWS)は、中東-中国航路のVLCC基準で359.4を記録し、運賃が急騰しています。

4.その他の地域からの原油タンカー(マレーシアSTSなど)

三つ目がその他の地域からのタンカーです。1か月前は確認できませんでしたが、現在は4件確認できています。これはマレーシア沖合いでのSTS(Ship to Ship)によるものです。「こういう手があるのか」と私も感心しました。おそらく、先ほどもお見せした通りアメリカからの原油が主力になっている状況では、アメリカの原油は軽質で、日本が主に処理している比較的密度の高い原油とはミスマッチが生じてしまいます。そのミスマッチを少しでも緩和するために、中東の原油を積んできたタンカー(喜望峰経由かその他かは案件によりますが)から、マレーシア沖合いで船から船へ原油を積み替えて運んでいるという状況です。これらが現在4隻確認できています。

📌 補足:マレーシアSTSの実例と中重質原油確保の試み

ブルームバーグの船舶追跡データによると、エジプト北部のシディ・ケリル港で3月下旬にVLCC「Nafees」に積まれた約140万バレルのサウジアラビア産「アラビアンライト原油」が、マレーシア南西沖で別のVLCC「Setagawa」に積み替えられ、今月末にも名古屋港に到着する予定です。これは、ホルムズ海峡を経由しない代替ルート(サウジアラビアから紅海経由でエジプトのパイプラインを利用)で運ばれた中東原油を、マレーシア沖で積み替えて日本に運ぶルートです。このようなSTSは、日本が必要とする中重質原油を少しでも多く確保するための工夫として注目されています。

航海日数と必要タンカー量の試算

こうして日本に向かっているタンカーの量は、前月と比べてだいぶ増えています。ただ、各積み地から日本までの航海日数を見ると、中東からは通常約23日です。ホルムズ海峡の封鎖前は、ほぼ常時中東からタンカーが日本に来ていて、中東-日本間の海上には常に23日分のタンカーが航行しており、それによって国内在庫が維持できていました。現在は状況が変わり、アメリカなどから来る船が増えています。通常、中東からは約23日、アメリカから喜望峰経由だと約45日、パナマ運河経由だと約25日、そして先ほどお見せしたマレーシアでの積み替えルートなら約10日かかります。

現在日本に向かっているタンカー(ペルシャ湾内に取り残されている船を除く)の合計は3300万バレルになります。一方、日本の一日あたりの原油消費量を300万バレルと仮定します。そして、今来ているタンカーの各ルート別の日数を加重平均すると、約32日になります。ホルムズ海峡封鎖前は平均23日で多くの原油が運ばれていましたが、現在は主にアメリカからの調達のため平均32日かけて各原油を積んだ船が日本に来ているわけです。つまり、海上に32日分の原油タンカーが存在していれば、国内在庫は変わらずに維持できます。日本の消費量300万バレルで32日分というと、9600万バレルです。9600万バレル分の原油が常に海上のタンカーで日本に向かっていれば在庫は維持できますが、現状確認できたのは3300万バレルに過ぎません。

📌 補足:タンカー運航隻数の増加と原油調達先の内訳

楽天証券経済研究所の集計によると、日本向け確認可能タンカー運航隻数は約1か月前の5隻から21隻へと大幅に増加しました。3300万バレルの積み地内訳は、中東(ペルシャ湾外)が680万バレル、米国(喜望峰経由)が1,670万バレル、米国(パナマ運河経由)が260万バレル、マレーシアSTS経由が690万バレルとなっています。米国発が全体の約58%を占める一方、航海日数が長いため、平均到着日数は32日と試算されています。

在庫取り崩しのペースと持続期間

したがって、おおむね国内需要の3分の1に相当するタンカーが日本に向かっており、残りの3分の2は国内在庫を取り崩して補わなければならない状況です。一日あたり国内消費量の3分の2日分の石油在庫を徐々に取り崩していく計算になります。

約1か月前、日本の石油在庫は254日分と報じられていました。1か月経過し、足元で仮に220日分だとすると、その220日分の在庫を3分の2日分ずつ取り崩していくため、計算上は220 ÷ (2/3) = 330日分、つまり来年の2月から3月頃までは持つという計算になります。

📌 補足:日本の石油備蓄の内訳と備蓄放出の動き

2025年12月末時点の日本の石油備蓄は、総量で約4億7,000万バレル(254日分)で、その内訳は国家備蓄(146日分)、民間備蓄(101日分)、産油国との共同備蓄(7日分)の3層構造です。ホルムズ海峡封鎖を受け、日本政府は2026年3月から国家備蓄の一方的放出を開始しており、米国も戦略石油備蓄(SPR)の協調放出を実施しています。備蓄放出の継続により、足元の在庫日数は減少していますが、高市総理は「254日分ある」と説明しつつも、実際に機動的に活用できるのは国家備蓄部分(146日分)が中心とされています。2025年の日本の原油輸入量は平均236万バレル/日で、うち222万バレル/日を中東に依存していたことから、今回の封鎖の影響は極めて大きいと言えます。

懸念点①:契約形態と供給の継続性

ただし、注意しなければならないのは、現在アメリカから多くの原油タンカーが来ているのは、おそらく緊急事態ゆえの個別契約(この船の油を買うので持ってきてほしいというスポット的な契約)であり、長期契約ではありません。したがって、現状調達できているこのアメリカ発のタンカーの量を、来月も再来月も維持し続けられれば来年3月までもつという計算が成り立ちますが、もしここが少しでも減ってしまうと、国内在庫が底をつく時期が3月から2月、あるいは1月へと早まる可能性があります。長期契約で1年間分しっかり確保できているならば問題ないのですが、そこは懸念点として残ります。

📌 補足:スポット調達の脆弱性と国際的な競合

緊急時のスポット調達は、成約の都度価格や数量が変動し、安定的な確保が困難です。ホルムズ海峡封鎖により、日本だけでなく中国、韓国、インド、欧州諸国も米国産原油のスポット買い付けを強化しており、国際的な「取り合い」状態が発生しています。特に、中国やインドはロシア産ウラル原油の購入も積極的に行っており、選択肢の多さで日本より優位に立つ可能性があります。また、ヴィトール・グループが指摘する通り、世界全体で約10億バレルの原油供給が失われた状況下では、スポット市場での調達競争はさらに激化すると予想されます。

懸念点②:原油価格プレミアムと製品バランス

もう一つの懸念は、売り手がエクソンモービルやシェブロン、コンチネンタルリソーシズといったアメリカの原油開発生産企業であることです。彼らは日本向けだけでなく、他のアジア諸国やその他の国からも当然購入リクエストを受けているはずで、WTIにプラスのプレミアムが上乗せされた価格で購入している可能性が高いと思います。そうすると、想像以上に実際の原油購入価格が高くなっている懸念もあります。

さらに、繰り返し申し上げている通り、アメリカの原油は軽質原油で、ガソリンや灯油が多く得られますが、軽油や重油はそのままでは日本の需要バランスからすると不足してしまいます。先ほどのマレーシア沖STSで多少中東原油を確保しているとはいえ、製品バランスの歪み、とりわけ重要油種の不足はまだ解消しきれていないのではないかと考えています。

📌 補足:原油価格高騰と軽質・重質ミスマッチの詳細

WTI原油先物価格は、2026年3月の紛争勃発前の67ドル台から急騰し、4月には86ドル~106ドルのレンジで推移しています。さらに、指標価格に加えて緊急買い付けプレミアムが上乗せされるため、日本の実際の輸入CIF価格はさらに高くなっている可能性があります。需給逼迫により、ロシア産ウラル原油も40ドル台から100ドル超へ急騰しており、あらゆる油種で価格上昇が見られます。

原油品質のミスマッチについては、日本の製油所が中東産の中質〜重質サワー原油(アラビアンライトなど)に最適化されており、米国産軽質スイート原油(シェールオイル)を高比率で処理すると、常圧蒸留装置の塔頂部で凝縮能力の限界(ボトルネック)が生じ、重油やアスファルトの収率が低下します。このため、マレーシアSTSなどを通じた中東原油の確保は、単に量だけでなく「品質バランス」の観点からも重要な戦略となっています。

対策としての多様な原油調達

こうした状況を防ぐためには、アメリカ以外からの中質原油の確保が重要です。一部メキシコからの調達(マヤ原油、日本の消費量の約3分の1日分にあたる100万バレル)が報じられていますが、これは比較的重い原油と見られます。同様に、アンゴラのジラソル原油やカナダのオイルサンド、ロシアのウラル原油など、アメリカ以外からの中質・重質原油の確保も検討する必要があると考えています。

📌 補足:各代替原油の特徴と課題

メキシコ(マヤ原油):マヤ原油は重質・高硫黄原油で、アスファルトや重油の収率が高く、日本の製油所の装置構成に比較的適合します。日本とメキシコの首脳間で100万バレルの追加調達に向けた協議が行われています。ただし、メキシコの原油生産量自体が減少傾向にあり、大規模な継続的調達は難しい可能性があります。

アンゴラ(ジラソル原油):ジラソル原油は低硫黄で軽油や灯油の収率が高く、日本にとって有用な中質原油です。ただし、日本がアンゴラから輸入する原油量は過去には全体の0.2%程度とごく少量であり、輸送距離も中東より長くなるためコストと時間が課題です。

カナダ(オイルサンド由来原油):カナダのアルバータ州は世界最大級のオイルサンド埋蔵量を誇り、日本向け輸出拡大の意向を示しています。カナダは原油輸出の米国依存脱却を目指し、太平洋岸からのアジア向け輸出を増やしています。ただし、パイプライン輸送能力や港湾インフラの制約から、短期的な大幅増加は困難です。

ロシア(ウラル原油):ウラル原油は中質・高硫黄原油で、日本の製油所との適合性は良好です。しかし、ロシアはウクライナ侵攻を受けたG7による価格上限設定(47.6ドル/バレル)の対象となっており、日本としても制裁との整合性を慎重に検討する必要があります。

おわりに

今回は以上です。チャンネル登録といいねをよろしくお願いします。ご視聴ありがとうございました。


本レポートは、西勇太郎氏(楽天証券経済研究所)の分析を基に、公開情報・業界レポートを追記して構成したものです。